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2025.05.23やっぱり【向田邦子】は凄かった/エッセイ集レビュー

 

 

もう作品が世に出て

かれこれ半世紀に手が届くが

それでも尚、傑作と言われる所以であろう。

 

 

📕📕📕

 

向田 邦子

ベスト・エッセイ』

 

向田 和子編

ちくま文庫

 

📕📕📕

 

 

向田邦子の作品は、これまで3回読んでいる。

小学生、20歳前後、そして51歳の現在。

(向田邦子が亡くなったのが51歳という偶然)

 

小学生の国語の教科書に『字のないはがき』を初めて読んだ。

あなたも記憶に残っているだろうか。

 

20歳前後の時、短編小説『男どき女どき』を読んで

まさに電気が走るようなショックを受けた。

それから漁るように向田作品を片っ端から読んだ。

 

それから30年。

ふと無性に読みたくなり、図書館で『向田邦子』を探した。

幾つかある作品のなかからパッと迷わず手に取ったのが

この本だと言うわけだ。

 

粗末な言葉しか出てこなくて悔しいが

改めてすごい。すごすぎる。

 

そして私は20歳に衝撃を受けてから今に至るまで

かなりの影響を受けてきた事に気がついた。

 

 

 

 

1   日常を切り取る

 

厳格な父。おおらかな母。

4人きょうだいの長女として育った邦子。

ごく平凡な家庭の、ごく平凡な日常を、

なんとも絶妙な切り口で描いている。

 

 

P52・・・・・

 

おもてで肉親と出逢ってしまうことがある。

道を歩いていると、向こうのほうから親きょうだいが歩いてなくる。こういうとき、私はどういうわけか、大変にあわて、へどもどして居心地の悪いことになってしまう。

あ、と虚心に手をあげることは滅多にない。大抵は、気づいたことを相手に悟られないよう、なるべく知らん顔する。

 

・・・本文「知った顔」より抜粋・・・

 

 

出だしの語り口から、グッと引き込まれる世界。

家族に対し、こんな経験は誰しもあるだろう。

 

 

 

 

2   女の芯の強さ

 

ドラマ『阿修羅のごとく』をはじめ、

女の強さの描き方がとにかく秀逸である。

 

普段は威張り腐った父に対し、

慎ましながらも笑い上戸で肝の座った母。

 

戦時中、投下された火で、いよいよ自宅が燃えてしまうかもという状況の中、

社宅だからか土足でも気を遣ってつま先立ちで歩いている父。

対し母は、土足で勇ましく畳の上を大胆に汚したエピソードは、時代が変わっても、状況がどうであっても。

 

むしろこんな状況下だからこそ、だろう。

女は、母は強し。と共感せずにはいられない。

年齢を重ねてさらに思いは強くなる。

 

 

 

3   自分をさらけ出す

 

これぞ、エッセイ中のエッセイ。

幾度となく突き動かされた作品は、

これまでにも、そしてこれからも無いだろう。

 

どんなに頑張っても届きやしないが

こんな文章が書けるようになりたい。

 

気に入った手袋しか着けない「主義」の邦子。

どんなに寒くても、周りから風邪を心配されても

世間が着ける一色でも決して着けない。

気に入った手袋がないから。

 

ある時、そば屋で当時勤めていた会社の上司に忠告をされる。

 

 

p353・・・・・

 

「君のやっていることは、ひょっとしたら手袋だけの問題でないかも知れないねえ」

私はハッとしました。

「男ならいい。だか女はいけない。そんなことでは女の幸せを取り逃すよ」

そして、少し笑いかけながら、ハッキリこうつけ加えました。

「今のうちに直さないと、一生後悔するんじゃないかな」

 

・・・本文「手袋をさがす」より抜粋・・・・・

 

今のご時世、上司の言葉は完璧にアウトだが、

問題はそこではない。

 

邦子はある一つの決断をする。

 

 

色々書きたいことは他にも山ほどあるが

 

「手袋をさがす」に至っては、

現在の発信の在り方、社会や周りの人との調和、欲求との付き合い方。など。

現代の人間が抱える悩みと、さほど変わらない。

 

邦子の覚悟が、このエッセイによって結論づけられている。

 

 

現代の悩ましいご時世だからこそ、皆に響く作品ではなかろうか。