
「要らない」って言っているのに、持って来た。
あるコミュニティで知り合った、Nさんからのプレゼント攻撃があった。
Nさんは私より10歳上の63歳。独身。女性。
ぱっと見、絵に描いたような“おばさん”の風体。
根元からのソバージュ(!知っている?)のショートヘアに
幾重にも塗ったようなファンデーション。
エコバックはいくつも手からぶら下げている。
今時珍しいタイプの“おばさん”だなという印象だった。
どうやらそのNさんに気に入られたらしい。
「あなた、ハンカチ要る?」
まだ知り合って間もない時に、突然Nさんから質問された。
「え?ええ、何ですか?」
いきなりこう言われて、要るも要らないも、ない。
彼女の言葉から推測するに、プレゼントかな?とも思ったが
まだ仲良くも、しかも私の名前も覚えいない様子の Nさんに
「プレゼントなら要りません」
ってはっきり表明するほどの仲でもない。

うわー、なんか変な人に捕まっちゃったかな?
心の中で密かに思った。
昔から友人の少ない私は、
ちょっとクセのある人から気に入られることがあった。
一人でいることも多いので声をかけやすかったのかもしれない。
今回もその「予想」は当たった。
Nさんは距離感が掴めない人だ。
やはり私にハンカチをプレゼントしたかったらしく、
その話が再度出た時も
「ハンカチは要りません」
だけでは冷たい印象を受けるかと思い
「お気持ちだけ受け取っておきます」
と、言葉を追加してニコリと笑ってやんわり断った。

少し残念そうな顔のNさんだったが
そうでもしないと相手に主導権を握られ思うままに操られる、と危機感を覚えた。
それは私が過去の出来事から嫌というほど学んだ、消極的な処世術だ。
初対面から敬語を話せない。
私のことを「犬っぽい(顔)」と言い放つ。
でも、なぜか憎めないんだよね。
THEおばさん、の見た目ながらも
思ったことを口にする彼女の独特な言動は
少女のピュアな心を持っているように見えたのだ。
そんな他人からはなかなか理解しづらい
彼女の“近いコミュニュケーション”に人が離れていくのを、感じた。
私自身がコミュニティを抜けるため、Nさんとお別れする時が来た。
お別れが近づいて来た時、
何度か断ったはずの、Nさんから例のハンカチをもらった。
あれほど「要らない」って言ったのに。
心の中では全くもう、、!と呆れたが、所詮言っても無駄な人だ、やれやれ。
しかも、紙袋の中を後から見返すと
デパートで購入したであろう綺麗に包装された、趣味ではないハンカチ2枚、と
そこら辺のスーパーで買ったであろう、菓子パンや値引きシールのついた饅頭まで入っている。
「おいおい。。」あなたは私の何なんだ?
最後の方では年上のNさんに敬語で話すこともバカバカしくなりタメ語で話した。
他人との一定の距離感を保ちたい私にしては、至極珍しいことなのだ。
それでも距離感は縮まることもなく離れることもなく。
それからNさんに会わなくなり、随分と月日が流れた。
出勤の際、玄関先で思い出したハンカチ。
そうだ一応持っていこう、と上着のポケットに突っ込んだ。

天気予報では夕方から荒れるとのこと。
予報は的中。次第に強くなる横殴りの雨が下着まで染み込む。
持って行ったハンカチがここに来て、役に立った。
要らないもの、と思っていたのに。

捨てる神あれば拾う神あり。
そんなことわざが頭をよぎった。
Nさん元気でやってるか?