
結論から言うと、ものすごく面白い物語だった。
『BUTTER 』
柚木麻子 著

新潮社
あまりにも盛りだくさんのテーマが入り組んでいて
細部に渡る丁寧な描写でありながら、この話は見事に整理されて
その構成力に思わず唸ってしまう。
女としての生き様、例えば家事への負担、世間から受ける美醜マウント、他には
夫婦のセックスレス、生きづらさを抱える孤独な男たち、上っ面の親子の関係など
現実に起こりがちな闇を淡々と描いていおり、
次の展開が掴めずにページをめくる手は淀みがない。
どこで読んでも集中できた。
雑誌記者である主人公・里佳が接触する、
拘置所に入っている梶井真奈子への取材から物語は始まる。
マーガリンじゃなくて「バター」
本物しか口にしない。
最初の方で梶井が里佳に伝える、この言葉がとても印象的。
昨今の物価高で、バターではなくマーガリンを買うことが多くなった。
スーパーで販売しているバターも雪印の物だって500円くらいはする。
カルピスバター、エシレバター。
日々キッチンに立つ主婦としては前から知っているが高嶺の花だ。
バターは高いからマーガリンにしよう。
最近では「バター風味」のマーガリンもある。
家計を助けるため、本物に近い味で満足しているフシがある。
この本を読んでいる途中からお腹が空き出し、
冷蔵庫にある、すぐにできる
たらこスパゲッティ、バターを乗っけたご飯を食べたくなった。
ただ、バターは無い。

思い立ち、バターを買った。
ご飯にかけた。やっぱり違う。
さらにこれまで作っていたバターの代用として作っていた
なんちゃってバター(マーガリン)クッキーを正式なバターに変えて作ったら

家族の反応が、これまで以上にすこぶるよかった。
この話のほとんどは料理を軸として展開される。
料理のできない里佳が、最後には見事に七面鳥を焼くまで成長する。
最初から最後まで美味しい話、でもあるが、
取材で訪れた一人暮らしの男の家の掃除をする一幕もある。
汚いキッチンを磨き上げる友人・怜子の様は、勇ましい。
P356・・・・・・
どんな環境であれ、少しでも快適にしようとする女の知恵、自分好みに環境をカスタマイズできる女の逞しさを、保守的な男ほど疎(うと)んじるものだ。でも、それこそが彼らが女になによりも求める家事能力の核に他ならない。どうしてその矛盾に気づかないのだろう。家庭的な女でさえあれば、自分たちを凌駕(りょうが)するような能力を持たない。言いなりになりやすい、とどうして決め付けているのだろう。家事ほど、才能とエゴイズムとある種の狂気が必要な分野はないというのに
・・・・・本文より抜粋・・・・・
家事とは?
女の生き方とは?
家族とは?
唸りっぱなしの585ページ、圧倒的な内容だった。