善と悪
表と裏
白と黒
何が正しくて、何が悪なのか
昨日敵だった人間が、明日には味方になる
おんなじ人間なのに。
『へいわとせんそう』
谷川俊太郎 文
Noritake 絵
ブロンズ新社
先日の兵庫県知事再選の一件を思い出した。
メディアに翻弄され、あれよあれよと悪人となった。
一人の政治家の告発によって、身の潔白が証明された。
失職した際の見送りの職員は片手で数えるほどだったのが
再選された登庁のシーンでは多くの職員に拍手で出迎えられた。
テレビで観て、とても違和感を覚えた。
自分とて人のことは言えない。
メディアの影響は受けた。
心があっちにこっちに動いたことは確か。
一件の疑惑や事件については色々言われているが、
それとは別に
一人一人の心の中を想像し、おそろしいと思った。
ひとりの言葉によって
そんなに急に変われるものなのか。
一人が「正しい」といえば
10人、100人、1000人・・・と伝染する。
一人が「悪い」といえば
10人、100人、1000人・・・と伝染する。
正しさは人の数だけ強固なものになり、また反対も然り。
皆、正しさを振り翳している。
正しさはいつしか大きなものになり「悪人」を作り出す。
悪人となった人は昨日まで「正しい人」だったのに。
正しいか、そうでないか。
周りが言うから、ある人が言うから、みんなが言うから、正しい。
それだけでいいのだろうか。
最後に谷川さんの詩を紹介する
・・・・・・・・・
『生きる』 谷川俊太郎
生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみすること
あなたと手をつなぐこと
生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと
生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ
生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎていくこと
生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ
・・・・・・・・・
悪を作るのも善を作るのも、悲しいかな、人間の心である。
谷川俊太郎さん
ご冥福をお祈りします。