「ヘルパーさんが勝手に冷蔵庫の食材を捨ててしまう」
何ヶ月前か、母が私に言った。
母(78歳)は初期の認知症だ。
ヘルパーは
週2回の訪問だったのを、最近は3回に増やしてもらった。
父も若い頃の不摂生が祟り、自宅でも酸素を持ち歩いている状態だ。
一軒家に二人暮らし。
私の自宅から車で1時間ほど離れた場所に住んでいる。
普段は私たちの手が届かないため
地域の医療や介護など、他人さまにもろもろお世話になっている。
そんな認知症が始まった母から
思いもよらぬ言葉を聞いた。
「ヘルパーさんが勝手に食材を捨てる」
「食材がゴミ袋に捨てられるのを見て悲しくなる」
冷静になろうとしたが
少し気持ちがざわついた。
介護認定(母自身は介護度を覚えられない)を
受けてからと言うものの、担当の私と同世代であろうケアマネジャーと何度か連絡を取り合っている。
今でも信頼をしている。
だが、年配のヘルパーのやっている事は本当なのか。
いくら認知症とはいえ
本人の意思を無視し、捨てたのか、どうか。
真実を確かめたく、電話した。
先方は
「期限切れの食品があった」ので
「食中毒が心配で捨てた」
と話した。
“勝手に”捨てたかどうか、は曖昧な返事だった。
とうの本人の母、に確認しても、これまた曖昧なのだ。
「ヘルパーさんも色々考えてくれるし」
「自分では決められないのよ」
母に対しても、少なからず苛立ちを覚えるが
グッと堪える。
実際の所はわからない。私はその場にいないのだから。
期限切れの食品があるのも承知の上だ。
この件は、ケアマネジャーに
勝手に捨てた想定なら、
「勝手に捨てる事に対しての配慮がない」
「これからは本人に確認して捨てて欲しい」
と、注意をした。
ヘルパーとして現場で20年以上、働いている友人がいる。
他にも介護の資格を幾つか所有しており、介護のプロ。頼もしい存在だ。
彼女に事のいきさつを話した。
すると
「勝手に捨てる事はしない」
とハッキリと言い切った。
「絶対に本人に確認してから捨てる」とも。
ただ、例外もあるそうだ。
捨ててもわからないほど認知症が進行している場合、など
こっそり彼女が捨てる事もしている。
プロとしての彼女のプライドを見た。
彼女が最も大切にすること。
これは人間の尊厳だ。
これは片付けのプロとしての私の意見と全く一致する。
どんな状況でも人の物を勝手に捨ててはならない。
なかなか胸の内を公にできず苦しかったが、話したことでホッとした。
結局は一緒に住んでいない私が、
娘と言えども、とやかく母の事を言う事でもないのかも知れない。
しかも日常的には介護スタッフの方が私よりも接している。
ヤキモキしている自分にもイライラする。
手をこまねいている場合でも無さそうだ。
別件ではあったが
ある日、ケアマネジャーから連絡があり
最後に「期限切れの食品」について再度話した。
内容はこうだ。
月に一回、実家に帰り
冷蔵庫から期限切れの食品を「私が」持ち帰るor捨てる事、
それから
ヘルパーが食事を作る時「任せる」事にした。
捨てても、文句なしよ。と言う意味だ。
もし文句があるなら母からヘルパーに話せばよい。
どこかで私も、母との関係に線を引かねばならない。
実際、実家の冷蔵庫から持ち帰った食品を
よくよく見たら1ヶ月、2ヶ月過ぎたものもあった。
やっと腑に落ちた。
母と話し、介護スタッフとも連絡をとり
私が娘としての少しばかりの責任を負い。
介護スタッフへの感謝の気持ちとともに
母との関係を見直した帰り道だった。