
青天(アオテン)P66・・・
笛の音。
‥‥‥後転した、のか?
頭を上げると、砂塵の向こうに黒い壁は依然として聳え立っていた。ヒットの瞬間の衝撃が喉元を締め付けて息ができない。それを弾き返すようにして咳をして、気管を無理やり広げる。
アオテンされた‥‥‥。羞恥心が股間から迫り上がってきて、思考を麻痺させる。
アメフトにおいて、仰向けに倒されることはアオテンと呼ばれていて、最も屈辱的な状態だ。
チームメイトも、ギャラリーも、敵さえも静まり返っている。
・・・・・・本書より抜粋・・・・・
『青天(アオテン)』
若林正恭 著
文藝春秋
アメフトを一言でいうと
「陣地を取り合うスポーツ」だ。
攻撃と守備にわかれているが、野球とは違い
攻撃や守備での選手のプレー次第で攻守が交代することがある。
これはアメフト小説だ。
本書ではアメフト用語が随所に散りばめられている。
アメフトに馴染みのない方はよくわからない?と思われるだろう。
私だってそうだ。
次男(大学4年)がアメフト歴4年目になるが、今だに試合を観戦してもよくわからないことが多い。
それもそのはず。
陣地取り合うものすごくシンプルな目的なのに、
戦術が100も超えている、なぁんてことを子供から聞いて驚いた。
そりゃ、複雑なわけだ。
ただ体当たりをするだけのスポーツではないことは
主人公通称「アリ」の友人・河瀬の存在が物語のキーパーソンになって異彩を放っている。
変態的なアメフト分析でチームの「縁の下の力持ち」な役割を担う。
主人公アリは強豪校にズタボロにされた引退試合のあと
周りが受験勉強をする中、ヤケクソになり
タバコを吸い、クラブに出入りし、喧嘩もする。
落ちるところまで落ちていく。
そんな彼を救うのが、河瀬をはじめとした
後輩のチョモ、教師の岩崎、などアリを取り巻く人物たち。
個人的には
アリの通っている高校の目の前にある中華料理屋「珍来」の店主とのやり取りが
実際の漫才を想像させ、腹を抱えるほど笑える。
さすがツッコミ担当。キレ方がぶっ飛んでいる。大好き。
アメフトのことをよくわかっていなくても、この本は面白い。
世のスポーツの多くの人は
ある一部の「選ばれしもの」になろうとする。
もしくはそれに近づこうとする。
引退試合で涙が出なかった、という本の中のエピソードは
若林ファンである、前途した次男も過去に経験済みである。
引退試合の後、皆が泣いている時に感情が動かなかった。
彼は帰宅後そう言っていた。
「なんでいつかは負ける試合なのに泣くのか?」
と。

P132・・・・・
普通すぎる。
成績優秀な優等生にはなれなくて、不良の真似事をやってみても、原付に無免で乗るぐらいのチャチなことしかできない。
クラスの一軍の人気者とかじゃなくて、元いじめられっ子の復讐でもない。
全てが中途半端。語るべきことが何もない。
だから、人にぶつかっていないと自分が生きているかどうかよくわからなくなる。
・・・・・本書より抜粋・・・・・・
プロになりたい。
有名になりたい。
名誉が欲しい。
本当にそうだろうか?
誰かが決めたものに乗っかるのもいいが
たまには本能に従って生きてもいいだろう。