昭和のオヤジ、あるある。
古い電球から新しい電球に変えられない。
自分の子供のオムツを変えたことがない。
キッチンに立って調理したことがない。
団塊の世代と言われている、昭和22年〜昭和24年ころ生まれの親世代。
団塊ジュニアとして、そんなオヤジを持つ私たち。
私より年配の女性陣も
「昭和のオヤジは当時、威張ってばかりで何もしてくれなかった」という話題で盛り上がることがよくあります。
昭和のオヤジ、威張ってばかりで、家庭を顧みず、家事一つもしないで
どうしようもない???
本当でしょうか?
ある1人の昭和のオヤジ、の話をしたいと思います。
79歳、男性。Nさん。
最愛の妻が亡くなり3年。
男やもめに、なんとやら。一人暮らしが始まります。
遺品整理のついでに「まずは冷蔵庫から」と思って冷蔵庫の扉を開けたら、
化石のようになった、干からびた、期限切れの食品、がいくつも出てきたそう。
Nさん曰く
「妻がいる時はキッチンは『女の城』だから、(冷蔵庫の中を見ることがあっても)遠慮して何も言わなかった」
…なんてお優しい。
奥様がいなくなって3年目。
奥様と2人暮らしの時は、家事は奥様中心、Nさんは特に家事をしてこなかったそうです。
そんな家事(ほぼ)未経験のNさん。
さて、冷蔵庫から始まった、片付け。と家事。
男の一人暮らし、さぞかし寂しく、不便で、大変そう、と思っていませんか?
価値観がぶっ壊れます。
【1 ひとり暮らし「自分のために」暮らす】
Nさん宅の、冷蔵庫。
ドア裏のポケットです。
開封した鰹節を洗濯バサミでポケットに挟んで、目につきやすいようにしています。
ビールの前には、冷えたグラスがあり、美味しい時間をスタンバイしています。
さらにものが埋もれて見失わないように、高さ別、ジャンル別、に分類されています。
野菜室です。
背の高い麺つゆはドアポケットだと取り出しづらいので、引き出しを上手に活用しています。
ペットボトルをカットしアイデア収納にきゅうりなど「立てる収納」空間をうまく使い、
スペースを無駄にしていません。
野菜鮮度保持袋(左上)に葉物野菜を包んでいて、腐らせない意識を感じます。
冷凍庫です。
一度に炊くお米をおにぎりにし、おにぎりの具ラベルまで貼っています。
余ることのないように保存袋に入れて管理した食材。
サイズに合わせて食材を分類しているカゴや仕切り。
何度も言いますが、
3年前まで家事をやってこなかった、一人暮らし男性の冷蔵庫の中、です。
【2 老いや死に対して案外「ドライ」である】
冷蔵庫だけでなく、家中の片付けを進めたNさん。
家の中が片付き、綺麗になっていく様子を複雑な想いでいるのは
Nさんの娘。私の友人。私と同じ50歳です。
「片付くのは嬉しい、けれど、終活、死に向かっているようで、なんだか寂しい」
「父(Nさん)には、あまり片付けなくていいからね、と伝えている」
とのこと。
家族だから、そう思うのは当然かもしれない。
けれど客観的に、この冷蔵庫、写真だけでも、見たらわかる。
本当に心から暮らしを楽しんでいる、と。
話が少しずれますが、
現在、何名かシニアのお客様宅での片付けに定期的に伺っていますが
ある片付けの現場で、以前、押し入れの中から「素敵に撮れているでしょう」「前撮りだと安いのよ」とご自分の遺影(葬式用の写真)を嬉しそうに見せていただき、どう対応したらいいかと少し困惑した経験があります。ですが
最近ではお客様とは、死生観、死ぬまでにやっておきたいこと、ご主人よりも先に死なない、など。お昼休みの時間やサービス終了後などにお茶をいただきながら 楽しくお話しすることも。
老い、死、誰もが来る、いつかの時。
ご本人たちは、子世代が思っているよりも案外ドライ、なのかもしれません。
【3 終活は「おわり」ではなく「はじまり」】
老いも死も、怖い。
怖いのは「わからないから」。
自分がどうなっていくのか?
病気?老衰?考えてもわからない。
また親だけでなく、自分だっていつ死ぬかわからない。
だからって怖がっていても、しょうがない。
毎日は続いていくのだから。仮にその日が訪れても、自分自身が納得したい。
「朝起きてから朝食を食べ終わるまでに、やることを決めて毎日同じ動きをする」
Nさんの言葉です。
「明日(突然)自分が死ぬことになったら?」なんて質問が巷ではありますが
愚問かもしれない。
「いつ死んでもいい」と思うと同時に「自分なりに工夫して楽しく丁寧に暮らす」
そう思って行動する日々のほうが、生きている実感を感じると思う。
そのために私たちができること。
毎日の暮らし一つ一つを丁寧に。自分を大切に。家族を大切に。
昭和のオヤジが劇変することだってある。
自分の価値観なんてアテにならない。
片付けは終わりではなく、はじまりである。
Nさんの行動に触れ、感じたこと。
Nさま、写真提供とメッセージありがとうございます。