heya-koto

BLOG

2025.08.13重松 清【答えは風のなか】ブックレビュー

 

 

あなたは今

何を思って何を感じているか?

 

 

『答えは風のなか』

重松 清   著

 

新潮文庫

 

 

 

主に子どもを題材にした、10の短編小説からなる。

テーマは、いじめ、差別、コロナでのマスク生活、など

 

どこにでも誰にでもあるような身近なテーマを扱っている。

隣国の話から雑草の話まで自分ごととして捉え、始終身につまされる。

と同時に

重松氏の小説はいつも私の心を解きほぐす。

 

眉間に皺が寄っている時に

重松氏の本を購入しているような気がする。

 

本屋でこの本を手に取り

何も考えず、レジに直行した。

 

 

 

 

1 「いいヤツ」って何だ?

 

一番最初の小説だ。

 

小学5年生の伊藤くん。

隣の席になった中村くんから「いいヤツ」認定を受け、嬉しくなる。

中村くんは目立つ存在で友達も多い。いわゆるスクールカースト上位層。

 

ところが次第に伊藤くんが、中村くんと周りの男子から「いいヤツ」を言い訳に

使いっ走りにされはじめ、

最初は気が付かなかった気持ちにモヤモヤし始める。

 

 

P31・・・・・

 

「ナカちゃんは、なんでオレと隣になりたいの?」

一瞬きょとんとした中村くんは、あははっ、と笑って言った。

「だって、イトちんって、サイコーにいいヤツだもん。ずっと隣同士でいたいよ」

そんなのあたりまえだろ、という笑顔だった。ぼくも「サンキュー」と言った。

今度は笑顔になっていた、と思う。

 でも、ほんとうは、中村くんには別の言葉を言ってほしかった。

 友だちだから━━━。

 そう言ってくれたら、ぼくは素直に笑えていただろうか。同じだっただろうか。

 いいヤツと友だちの違いって、なんだろう。違いなんてないんだろうか。ちゃんとあるんだろうか。

 

・・・・本文「いいヤツ」より引用・・・・・

 

 

 

 

2 伊藤くんのプライド

 

一見、いじり・いじめにも発展する?と読んでいてドキドキする。

どうみても、関係性が弱者と強者の図式に見えるから、だ。

 

 

けれど、引用した本文を改めて見返し、なぞってpcに打ち込んでみると、

伊藤くんのプライドらしきもの、が垣間見える。

 

心の中では「ぼく」だが、中村くんに対しては「ナカちゃん」と呼び

自分のことを「オレ」と言っている。

さらには二人のやりとりが自然な“男子あるある”の会話であることで

対等な立場を貫いているように見える。

しかし、一方で伊藤くんの心中は中村くんに対して、それでもモヤモヤが残っている。

 

 

あなたにも似たようなご経験があるだろうか。

 

 

 

 

3 綺麗ごとだけで片付けない

 

この小説「いいヤツ」の結末は、しょっぱなから度肝を抜かれた。

「この結末でいいのか?!」と。

 

 

読み進め、他の短編も読んでいるうちに、次第に納得した。

自分一人の考えなんてちっぽけなものだ。

 

どんな人でも声を上げられる時代と同時に

相手を傷つけてしまっている言葉や、

一方的な考えに偏りが起こることも少なくはない。

また問いに「早く返す」ことが美徳とされている事も多いだろう。

 

 

立ち止まって状況や相手を静かに待ってみるのも、ひとつの「答え」であり

加えて、悩ましい「問い」を多く抱えるのも、また人間らしさではないだろうか。

 

 

 

今回もまた、重松氏のあたたかい眼差しを感じつつ、

後半戦に迫った子ども達との夏休みを、心穏やかに過ごせるように祈るばかり、だ。