夏休み 大人の読書感想文
『悪女について』
有吉佐和子 著
新潮社
《自殺か他殺か、虚飾の女王、謎の死》
醜聞(スキャンダル)にまみれて謎の死を遂げた美貌の女実業家富小路公子。
彼女に関わった二十七人の男女へのインタビューで浮かび上がってきたのは、騙された男たちにもそれと気付かれぬ、恐ろしくも奇想天外な女の悪の愉しみ方だった。
男社会を逆手にとって、しかも女の魅力を完璧に発揮して男たちを翻弄しながら、豪奢に悪を楽しんだ女の一生を綴る長編小説。
・・・・・裏表紙あらすじより 引用・・・・・
読みどころ/感想
主人公・富小路公子に出会った27人の証言を元に、謎の死を遂げた彼女の生き様を炙り出す、作品。
27人それぞれが公子について語る内容が、他と重なることもあり、全くずれていることもあり、
それぞれの主観によってこうも「公子」のイメージが変わるのか。
読めば読むほど、自分の中で公子の作りかけた形が崩れて行くのが興味深い。
実際、本当のところはどうなんだろう、読み手が混乱してしまう。
作者の有吉佐和子さんの手法がなんとも高度。
まるで演劇を生で観ているような、ドラマティクな内容。
後半は特にページが進み、グイグイと内容に引き込まれる。
本物と偽物。
p299 その十八 宝石職人の話・・・・・
「おじさん、それはなんという石?」
「これが本当のエメラルドだよ」
「本当のエメラルド?じゃあ偽物があるわけですか?」
「あるんだよ。チャザムって、とんでもねえ野郎が、四、五年前に本物そっくりのエメラルドを作り出した。藻まで入れちゃってよ。俺も初めてそいつを見たときゃあ、われと眼を疑ったね」
「おじさん持ってる?」
「持ってるよ。これがそれだ」
・・・・・本文より抜粋・・・・・
美しいものとそうでないもの。
本物とニセモノ。
偽名と本名。
本心と建前。
ここにもこの本の深さを感じる。
なんといっても、
公子自身が本文に登場していない、というところが一番であろうか。
本当のところは、謎。
それがいいのかもしれない。
なんでもはっきりと白黒つけたがる世の中だけれども、
あえて「わからない」のがいい。
自分が欲しいと思ったものは、手段を選ばず。
その反面「清く正しく」生きようとする
捉え所のない、女性。
そんな主人公・公子に、女である私でも魅力を感じてしまう。
昭和の時代背景もさることながら、
原点回帰で「奥ゆかしく」「柔らかい」かつ「したたか」な女を日常で演じてみたくなった。