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2024.08.09読書レビュー【悪女について】人の主観はさまざま

 

夏休み 大人の読書感想文

 

『悪女について』

有吉佐和子 著

新潮社

 

 

 

《自殺か他殺か、虚飾の女王、謎の死》

醜聞(スキャンダル)にまみれて謎の死を遂げた美貌の女実業家富小路公子。

彼女に関わった二十七人の男女へのインタビューで浮かび上がってきたのは、騙された男たちにもそれと気付かれぬ、恐ろしくも奇想天外な女の悪の愉しみ方だった。

男社会を逆手にとって、しかも女の魅力を完璧に発揮して男たちを翻弄しながら、豪奢に悪を楽しんだ女の一生を綴る長編小説。

・・・・・裏表紙あらすじより 引用・・・・・

 

 

 

読みどころ/感想

 

主人公・富小路公子に出会った27人の証言を元に、謎の死を遂げた彼女の生き様を炙り出す、作品。

27人それぞれが公子について語る内容が、他と重なることもあり、全くずれていることもあり、

それぞれの主観によってこうも「公子」のイメージが変わるのか。

読めば読むほど、自分の中で公子の作りかけた形が崩れて行くのが興味深い。

実際、本当のところはどうなんだろう、読み手が混乱してしまう。

作者の有吉佐和子さんの手法がなんとも高度。

まるで演劇を生で観ているような、ドラマティクな内容。

後半は特にページが進み、グイグイと内容に引き込まれる。

 

 

本物と偽物。

 

p299  その十八 宝石職人の話・・・・・

「おじさん、それはなんという石?」

「これが本当のエメラルドだよ」

「本当のエメラルド?じゃあ偽物があるわけですか?」

「あるんだよ。チャザムって、とんでもねえ野郎が、四、五年前に本物そっくりのエメラルドを作り出した。藻まで入れちゃってよ。俺も初めてそいつを見たときゃあ、われと眼を疑ったね」

「おじさん持ってる?」

「持ってるよ。これがそれだ」

・・・・・本文より抜粋・・・・・

 

美しいものとそうでないもの。

 

本物とニセモノ。

偽名と本名。

本心と建前。

 

ここにもこの本の深さを感じる。

 

 

なんといっても、

公子自身が本文に登場していない、というところが一番であろうか。

本当のところは、謎。

それがいいのかもしれない。

なんでもはっきりと白黒つけたがる世の中だけれども、

あえて「わからない」のがいい。

 

自分が欲しいと思ったものは、手段を選ばず。

その反面「清く正しく」生きようとする

捉え所のない、女性。

 

そんな主人公・公子に、女である私でも魅力を感じてしまう。

昭和の時代背景もさることながら、

原点回帰で「奥ゆかしく」「柔らかい」かつ「したたか」な女を日常で演じてみたくなった。