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2023.09.10淡々とした日常こそ最高のドラマだ!【『ひと』読書レビュー】

 

「恋は、遠い日の花火ではない」

30年前にもなるがウイスキーのCMで

今でも心に残る、名作。

市川準監督の作品を思い出した。

 

下町の商店街、人混みの中、世代の違う男女。

たった1分間、30秒の物語に、訳もなくときめいたもの。

市川準監督が好き過ぎて、子供の名前にも「準」をつけたくらい

夫婦揃って大ファン。

(初デートに観たのが市川準監督『東京夜曲』)

 

話がずれまくってしまったが、

 

 

『ひと』

小野寺 史宜 著

祥伝社

 

 

 

この市川準監督の作品と通じるものがある。

どこにでも(ありそうな)日常。誰にでも思い当たるような心の機微をうつした、主人公。

変化のないストーリー。

そこが絶対的に、いい。

 

日常の世界こそ、最高のドラマだと思う。

バイオレンス、恐怖、浮き沈み。

そんなものはいらない。

 

・・・P279・・・

次いで、高瀬涼は思いもよらない事を言う。

「おれはたまたまちょっといい大学に行っているけれど、そんな事は何でもないと思っているよ。

だから青葉とも普通に付き合えるし、コロッケなんかも好きだよ」

高瀬涼からLINEがきたとき以上に驚いた。素直に感心した。ちょっといい大学。何でもない。普通に付き合う。コロッケなんかも好き。

高瀬涼は今の発言に引っかかりを覚えてあkいる人がいることに気がつかないのだ。気付けていない。と言ってもいいだろう。生まれつき高いところにいて、そこから下りたことがないから。

「でもおれが柏木くんだったら、青葉を幸せにできないとおもっちゃうんだろうね」

・・・(本文から抜粋)・・・

 

主人公、柏木聖輔にマウントをとるライバルの高瀬涼の言葉。

「いい」とも思い込みながら、不安を隠せない、一コマ。

 

誰しも同じ「ひと」なのだと思い直す。

 

下町、惣菜屋、コロッケ。

30年前にタイムスリップして

あの時キュンとした原風景とリンクする。

 

じんわり、心に火を灯す。

優しい気持ちになる本。