
「全部、触らないで!」
以前、クライアント宅に片付けに伺った際に
そのお宅のお子さんから言われた。
見ると学習机の前には、ビニール紐で
ご丁寧に“バリケード”まで張ってあり
紐にくくりつけてある
張り紙には「片付けないで」と子供の字で書いてある。
そんなに片付けが嫌?
「片付けなさい」
子供にこう言っていないだろうか。
私も親からこうやって育てられた。
その結果、片付けとは
押し入れの中に床に散らばったおもちゃや本を
「突っ込む」ものと思っていた。
親は床に物が無い状態が「片付いた状態」言う認識だ。

突っ込むくらいだから。
おもちゃや本は当然大切に扱わない。
雑然としたカオス化した
押し入れの中が私の「片付けの原風景」だ。
以前娘が小学生の時、自宅に友人が遊びに来た。
そこそこ片付いた娘の部屋を見て友人が
「毎日こうやって片付けてるの?大変だね」
と娘に話していたのが耳に入った。
娘は特に反応はしなかったが
それを聞いていた私は
「そうか、大変と捉えるか」と妙に納得した。
当時、和室にあった娘のスペースは
夜になれば寝室になり、布団を敷かないと寝られない。
必然と畳に転がっている
ランドセル、教科書、おもちゃは“夜までに定位置”に戻す。

学校でも自分の持ち物は決まっている。
必要な時は自宅から絵の具、書道、彫刻刀と持参する。
引き出しの中はぐちゃぐちゃだって、しまう事がルール。
ロッカーは誰が何て言っても?!一人づつ。
そんな学校は散らかっていない。
はたして
片付けは大変なのだろうか?
これは
沢山のお子さんを持つ親御さんから話を伺い、わかった事。
片付けが苦手、と思う子供は
親も片付けが苦手な場合が95%以上である(金内調べ)
親が苦手だと子に伝染する。

冒頭のクライアント宅に戻る。
バリケードを張り、片付けないで!と言われた
片付けのプロである私は
踵を返して、仕事をせずに帰ってもよかったのかも知れないが
使命感で突き動かされた。
そして
お子さんにニコッと笑って見せた。
「何が嫌?片付けるの面倒くさい?」
まだ小学低学年のあどけない顔の男の子。
下を向きながら、言いにくそうに
「捨てられるのがイヤ」
ポツリポツリと話し始めた。
「そう。じゃ捨てないで整頓しようか。一緒に」
案外すんなり受け入れてくれた。
あんなに“宣戦布告”してたのに。
一つづつ、子供部屋の物を
「これって何?どうやって使うの?」
と確認した。
次第に打ち解けてくれる手ごたえを感じつつ、
一切モノを捨てずに片付けが終わった。
バリケードは外され、学習環境が整った机は
緊張感さえも感じられる程、だった。
一部始終、見守っていたクライアントのお母さんは
ホッとした様子。

何よりお子さんの態度が180度変わったのは
大変でも、突っ込むだけでも、捨てる事でも無い事を
証明してくれた。
大人の関わり方で
苦手だと思う事も、苦手で無くなる。