子供が教えてくれたこと
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辻村 深月 著
文春文庫
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連休に取り憑かれたように読んだ。
手を止める時間が惜しいくらいだった。
後々記憶に残る、小説。
この本は、2人の女の生き様が描かれている。
まるでドキュメンタリーを見ているような感覚になる。
(実際に映画、ドラマ化した)
一人の主人公、
佐都子は度重なる不妊治療の末、夫・清和と共に養子縁組を決断する。
養子縁組に我が子を預けた、
もう一人の主人公、ひかり。
当時中学生だったひかりには家族との確執がある。
産みたいのに、授からない。
育てたいのに、育てられない。
二人の交差する、心の揺らぎを丁寧に表現している。
佐都子の自宅にひかりが訪ねる再会の場面は息を呑む。
6年前とは違い、見すぼらしい姿で現れた、ひかり。
p53・・・・・
「・・・・・・あなたは誰ですか」
言ったのは清和だった。
〜中略〜
「失礼ですが、あなたは、私たちの朝斗のお母さんではありませんよね?(〜略〜)」
・・本書より引用・・・・・
毅然とした態度で佐都子と清和は接する。
ひかりの母ほど歳の離れた佐都子。
落ち着いている人柄ではあるが、夫や双方の両親との距離を掴めず苦悩する。
対し、ひかりは
両親ともに教師と言う堅実な家庭で育つも、姉との比較で
居場所がないと思い込み、家族に反発する。
そんな中、ひかりが妊娠した。
思わぬ妊娠、中絶可能時期を過ぎたひかりに、
両親は出産後に養子縁組を内密に進める。
様々な障害が彼女たちを待ち受ける。
養子縁組の制度はある程度理解していたつもりだが、
こんなにも上手くいかず切ないものか、と胸がギュッとなった。
世間では、結婚後当然のように子を産み育てる、血縁にこだわる我々日本人。
あれほど中学生の出産を「無かったこと」のように内緒にしていたのに
親戚には話す母に、苛立ちをあらわにするひかりの気持ちはいたたまれない。
望まぬ妊娠で不安を抱えながら身寄りの無い母親。
不妊治療の結果に絶望しながら心身共にすり減っていく夫婦。
しかし、
佐都子と清和が、ひかりの子である、
養子縁組を迎え入れた場面は光がポッと差し込む。
まさに文中にもある、佐都子の気持ち
「朝が来た」のだ。
冒頭の章では
幼稚園での子ども同士のトラブルの話がある。
ジャングルジムで押して落とされた、と疑いをかけられて
戸惑いながらも必死で、息子『朝斗』を信じる佐都子。
さらには同じマンション内での母同士のトラブルにも発展する。
あるあるだなぁ。と思いながら読み進める。
中盤まで来たあたりから、あのジャングルジムの一件、子供と母同士の話だけ
佐都子とひかりが中心の話の全体像から、切り離された印象を持った。
「正直、このくだり要る?」と思った。
けれど一夜明け、余韻とともにこの本に想いを馳せる。
いやいや、これ絶対にいる!
このくだりが無ければ、
後々の佐都子と朝斗の親子関係が薄っぺらいものになっていただろう。
実に細部まで丁寧に描写した辻村氏に尊敬の念を抱く。
母ってこうなんだよ。
何があっても子を信じるんだよ。
世界中、敵にまわしても。
佐都子は正真正銘の、母だ。
最後のシーンは佐都子が母としての成長さえも感じる、
素晴らしい結末を迎える。
全ての親、
親になる人、親としての節目に一区切りついた人、親になりたい人、
ぜひこの本をおすすめしたい。
☕️余談☕️
著者について他の本を調べていたら
辻村深月氏の原作である
アニメ映画『かがみの弧城』
以前観たことがあり。引き込まれる映画で面白かった。名作だと思う。
こちらもおすすめ。